2007/4/4に起きた六本木ヒルズ上層階でのボヤ騒ぎに関して、森ビルが原因報告をプレスリリースした。
六本木ヒルズ森タワー エレベーター機械室での発煙事故(4月4日発生)および その後の対応・対策について
プレスリリースによるとエレベーターを支えるワイヤーの一部が解れ、その部分が接触して火花が散りボヤ騒ぎになったとのことである。4月4日のブログ(宇宙ステーションが肉眼で見えます(4/4 ~4/14))の最後に書いたように、私はその時間まさに49Fに居て、何か焦げたような臭いを感じていた。
私の場合、他人の気になる行動はだいたい自分にも当てはまることがあり反省することが多いのであるが、今回のプレスリリースを見てやはり反省することになった。私は昨年度のシンドラー社製エレベーター事故の際にこのブログに記事を書いている(シンドラーのエレベータを考える)。シンドラーのエレベーターは、人命が奪われるよりも前に母校の東工大で明らかにおかしな動きがあったらしい。その不安定な動きを毎日感じていた工学部の学生、教授陣がその現象を考え、メンテナンス会社に連絡をしなかったことをブログで非難してしまった。しかしそれは今回の件で私にピッタリと当てはまる。今更言っても後の祭りなのであるが、六本木ヒルズの事故を起こしたエレベーターに乗っている時にこのエレベーターはいつか事故が起こると察知していた。普段なら何か製品などに疑問があればすぐに窓口に問い合わせる性格なのに、今回はその違和感を覚えつつも森ビルに連絡するのを怠った。宇宙工学とエレベーターでは分野が違うが、基本的な工学的感覚であのエレベーターに違和感を感じていたのに、何もアクションを起こさなかったのは問題であったと反省している。森ビルに連絡したところで調査をしてくれたかはわからない。しかし工学を扱っている職に就きながら将来の事故を予兆があったのにそれを報告しなかった姿勢は反省すべきであると思っている。今回は人命に関わらなかったため、結果的には良かったのであるが、今後はいつもの調子で疑問があったら問い合わせるという姿勢をしっかりと取っていこうと思っている。
さて、エレベーターの違和感について。
感じていた違和感とは、エレベーターホールに恒時的に吹く強い風とその風によるエレベーターの振動である。49F,51Fのエレベーターホールでエレベータを待っていると常に大きな風音が聞こえ、扉が開いた瞬間強い風を受ける。また昇降中もその風によりエレベーターが進行方向に対して直交方向に円を描きながら振動している。下図は、エレベータのワイヤーを1本とした場合(実際には複数本らしい)の振動の様子である。風は下から上が上がっており、また図のように渦を描いて吹いている(気がする)その風に揺られ、エレベーターの箱が赤い矢印のように振動しながら昇降している。この振動を感じたときに違和感を感じ、いつかこのエレベーターは不具合を起こすのではないかと感じた。

振動するエレベーターはそこら中に存在している。しかし今回違和感を感じたのは異常とも言える常時吹いている風が原因となっているからである。汐留付近や新宿新都心などのビル風は現在数値シミュレーションされ解析が行われている。そう考えると、あのエレベーターホールの風はおそらく設計想定外の風であると感じた。あの六本木ヒルズのエレベーターホールに分かっていて対策を取らなかったとは考えにくいからである。この想定外の風によって振動しているのではないかという仮定から違和感を感じていたわけである。
この件を少し職場で話した。なぜ風が起きるのか?全て仮定の話であるが、おそらくエレベーターが通過するエリアは言ってみればデッドスペースであり、そこにエアコンの室外機の熱い空気、何らかのモーター類の熱、機器室など熱を各階から逃がしているのではないかという仮定である。熱気球の原理からもわかるように暖かい空気は上昇する。200m近い縦のエレベーター空間に各階から熱が発生していれば、その上昇空気により常時風が吹く可能性があるのではないか。また上昇した空気は200m近い高度差ができると気圧が下がり結露を起こすのではないかという仮定も考えた。これは、森ビルの発表によると、ワイヤー類などが異常なほど錆びていたという報告があったためである。錆びて脆くなったワイヤーに、風による進行方向と直交向きの振動が加わると想定以上にワイヤーにダメージが蓄積される可能性がある。
今回の事故の責任はおそらくエレベーターメンテナンス会社が取ることになると思う。報道ではシンドラーの教訓が活かされていないと非難されているが、果たしてそれだけで済む問題なのであろうか。今回のメンテナンス会社は、規定通りメンテを行っている。事故直前のメンテでも問題なしということである。今回の事故は荒唐無稽な仮定ではあるが、あの想定外の風による錆びの促進と振動によって起こったものであると考えている。つまりエレベーターの設計では今回の振動は想定されておらず、普通のメンテナンス基準では判定が難しかったのではないかと考える。メンテナンスという仕事はおそらくマニュアル通りに誠実にチェックを行いOK/NGを判定しているはずである。そう考えると、今こうやって原因の調査という視点で見た場合は明らかに整備不良と判定できるが、日々の仕事でマニュアル想定外のトラブルを未然に検知できるかは疑問がある。
我々の人工衛星開発でも、サブシステムという小さい部分に分けて分担開発を行う。各サブシステムは規格通りに作り動作も確認するのであるが、各サブシステムを統合した総合システム試験でかならず想定外の問題が起こる。同じように、今回の日本最大規模のビルで起こった想定外の風は、ビル設計者、エレベーター設計者がそれぞれの基準で判定するではなく、全体のシステムとして想定される不具合を吟味しメンテナンス基準を作らないと対応できないのではないかと思う。おそらくエレベーターの本当の設計者がメンテナンスを行っていれば、このビルの環境ではより頻度の多いメンテナンスなどを指定したのかもしれない。しかし、設計者とメンテナンス者が違うのはもちろん、業務委託という会社も違うような現状では、今回の”当たり前”とも言える不具合でも気がつけなかったのはしょうがないのかなと思う(もちろんメンテナンス者がさぼっていたら話は論外である)
今回人命が失われなかっただけでも不幸中の幸いである。あのような大きなビルで人命が失われず不具合が見つかったのはむしろラッキーと考えるべきである。個人的に当日の森ビルの人的避難誘導は完全にミスリードであったと思っている。エレベータメンテナンス会社も森ビルも、そして違和感を感じていなかったのに報告をしなかった私も含め、箍を締めなおす必要があると思う。
最後に、今回の風の件はまともに調査もしていない勝手な仮定であり全く見当違いの可能性は大いにある。しかしこうやって一つ一つ不具合や現象がなぜ起きるのかを仮定・想定する、これこそがエンジニアリングの楽しみであると思う。
5.2 追記
今回のエレベーターメンテ会社(日本オーチス)が、今回の事故について記者会見を開きました。
ワイヤーの錆を気がついていたのに放置していたとのこと。全くの論外です。
確実にメンテ会社の問題で、シンドラーの事故も他人事だったということですね。
あと、なぜ錆びたかなどのは情報を流してほしいと思います。
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